第3回 ボロ布女とヤニ切れ女
先日、長野に住む友人からこんなメールが来た。
「長野には物がない。東京で物欲にまみれたい。」
その友人は以前8年近く東京暮らしをしていた事もあり、
長野駅前のMIDORI(駅ビル)や、シェルシェ(東急に毛が生えた奴、と言うより、毛を抜いた奴)や、
C−ONE(長野の流行発信基地。若者用。)では満足できないらしい。
友人のリクエスト通り、丸ビルと銀座でお買い物する事になった。
丸ビルはどうやら観光名所になっているらしく、明らかに丸の内のOL向けの店々で、
旅行会社の旗を持った添乗員の後ろをおばさん達がわんさか、ウロウロしていた。
おばさん達と互いに静かな攻防を繰り返し、物欲を満たすベく奔走する友人と私。
しかしなかなかいい出会いがないまま銀座に移動して程なく、愛煙家の友人が呟く。
「洋子ちゃん、ヤニがきれて死にそう。」
その日は、雨の中朝から動きっぱなしで、午後三時過ぎともなると、二人は省エネモードに入っていた。
会話も省エネ。呼吸すら省エネ。しまいには銀座や世の中に怒りすら感じていた。
一服してくつろぐ店をゆっくりと探す気力もなく、自然と目の前の不二家に吸い込まれていった。
ぐったりした状態でメニューを見ながら、二人の心は一つになった。
「ホットケーキが食べたい。わんぱくに。」
ボロ布女とヤニ切れ女。
なんだか絵本の題名みたいな二人には、子供の頃から大好きな、ホットケーキが最良の選択だった。
二人にはわんぱくになる必要があったし、その権利もあった。
ほっぺにクリームをつけ、口の周りを蜂蜜だらけにする義務があった。
フォークはグーで握って食べるのがルール。
……………………。
満たされていく我が血潮。ヤニ切れ女も恵比須顔。
ぺコちゃんのホットケーキ二枚(厚さ約1.5cm、+100円でソフトクリーム付)には、
本当に何と御礼を申し上げたらいいのか……。
”ねぇ、知ってた?幸せって、すぐ隣にあるものなの。
でも皆それに気付かず、遠ざかってしまうものなの。
今日おうちに帰ったら、あなたを迎えてくれるその人に「ありがとう」を届けようね。”
なっちにでも朗読させたい、ボロ布女の独り言。
おととい行った八代亜紀の新宿コマ公演で、彼女も隣人愛を語っていたっけ。
確かに、有名なパティシエが作った、色とりどりのフルーツが飾られた小さなケーキも魅力的かもしれない。
でも人は、疲れ果て、ちょっともう体裁とかどうでもよくなった時、
繊細に飾り立てられた「ひとひねり効いた」デザートなんかより、
素朴で懐かしくて、量的にもわんぱくなホットケーキ二枚(厚さ約1.5cm+100円でソフトクリーム付)を、
心の奥底で欲している生き物だ。
「ひとひねり効いた」デザートを食べたい自分はよそ行きの自分。
「ひとひねり効いた」デザートを食べている自分に酔いたいなんてナルシスト。
わんぱくの血はごまかせない。わんぱくは見ている。
ちなみに、ここで区別したいのが、自分で焼くホットケーキ。
わんぱくの種類とホットケーキの厚さが違うのです。
そんな訳で、今日も気分は、晴れ・のち・わんぱく。
誰か、おいしいホットケーキを出してくれるお店を教えてくれないかしら。
駆け付けるわ。牛乳とセットで食べるって約束するわ……。
モドル もっとモドル
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